福島簡易裁判所 昭和40年(ろ)47号 判決 1965年10月09日
被告人 佐瀬正明
昭六・二・二六生 プロパンガス販売業
主文
被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四〇年七月一一日午後六時一五分ころ、福島県公安委員会が道路標識によつて一時停止すべき場所と指定した福島市新町二九番地先道路において、軽四輪貨物自動車(福島あ四〇―二二号)を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 福島警察署司法巡査佐藤重隆の道路交通法違反現認報告書
一 右佐藤重隆の検察官に対する供述調書
一 昭和三〇年一二月一日福島県公安委員会告示第一二号抄本
一 被告人の運転免許証謄本
一 検証調書
一 検証現場における証人鈴木智恵子、同栗田和三郎の各証人尋問調書
(法令の適用)
被告人の判示所為は、道路交通法四三条、九条二項、一一九条一項二号、罰金等臨時措置法二条、道路交通法施行令七条、昭和三〇年一二月一日福島県公安委員会告示一二号に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、その罰金額の範囲内で被告人を罰金五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条に従い金二五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文によりその全部を被告人に負担させることとする。
(被告人の主張に対する判断)
被告人は、一時停止の道路標識の設置されてある場所において一時停止をしたから罪とならない旨主張するけれども、司法巡査佐藤重隆の検察官に対する供述調書、検証現場における栗田和三郎の証人尋問調書および検証調書の記載によれば、被告人が一時停止の道路標識の設置されてある場所において一時停止をしたことはこれを認めることができない。かりに被告人が一時停止の道路標識の設置されてある場所において一時停止をしたとしても、道路標識の設置されてある場所においては、右方の道路に対する見とおしはきくが、左方の道路に対する見とおしは板塀および石塀のために視界が遮えぎられて見とおしがきかないこと検証調書の記載によつて明らかであるから、同所に停止したのでは、一時停止をしたことにはならないものと解する。このことは、道路標識によつて一時停止すべき場所と指定された道路における停止すべき位置は、左右の交通の安全を確認し得る地点か、それとも道路標識の設置されている地点かということである。「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令(昭和三五年一二月一七日総理府建設省令第三号)別表第一、番号330」によると、「一時停止の道路標識を設置すべき場所は、車両が一時停止しなければならない場所として指定する場所内の必要な地点における路端」であり、「同命令末尾の備考二」によると、「道路の形状その他の理由により、道路標識をこの表の設置場所の欄に定める位置に設置することができない場合又はこれらの位置に設置することにより道路標識が著しく見にくくなるおそれがある場合においては、これらの位置以外の位置に設置することができる」ことになつている。これによつて見ても明らかなように、一時停止の道路標識の設置されてある場所は常に必ず一時停止をしなければならない場所であるとはかぎらないわけであつて、一時停止の道路標識は、設置場所において一時停止すべきことを命じたものではなく、当該交差点は一時停止をしなければならない交差点であることを表示するものと解するのが相当である。実際どこに停止すべきかは、交差点の状況により自然にきまるものと考えられるところ、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図ることを目的とする道路交通法(第一条、第九条第一項)の趣旨からすれば、左右の交通の安全を確認し得る地点において停止すべきは当然のことであると思う。現に本件検証時において通行した車両は、いずれも左右の交通の安全を確認し得る地点において一時停止し、道路標識の設置されてある地点において一時停止をした車両は一両もなかつた。本件において左右の交通の安全を確認し得る地点は、一時停止の道路標識の設置されている地点から交差点の中心に向つて約四メートル前進した地点である。一時停止の道路標識が左右の交通の安全を確認し得る地点以外の地点すなわち前記道路標識等に関する命令末尾の「備考二」により設置されたと思われるもの意外に多く、各所に存在すること公知の事実である。以上の次第で被告人の右主張は理由がないから採用することができない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 長瀬説慈)